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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和53年(ネ)232号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。(主位的請求として)被控訴人は控訴人に対し、金一五一六万九〇〇五円及びこれに対する昭和五一年一〇月二八日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。(予備的請求として)被控訴人は控訴人に対し、金一五〇〇万円及びこれに対する昭和五一年八月二八日より支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に附加するほか、原判決事実摘示と同一であるので、これを引用する。(但し、原判決六枚目表九行目に「甲第一号証」とあるのを「甲第一号証の一」と訂正する。)

(控訴人の主張)

控訴人が訴外武林に対し本件定期預金債権を被控訴人への担保に供することを承諾したことがないことは以下の諸点より明らかである。

(一)  通常、金融機関が預金証券を担保にとるに際して、正規の手続を妨げる合理的事情もないのに、担保提供者の同意書等担保取得手続に必要な書類を作成させないことは考えられない。

(二)  訴外武林から定期預金証書預り証が控訴人に交付されているが、右預り証は訴外武林個人発行のものではなく、被控訴人組合長武林の発行にかかるものであり、訴外武林名義で本件定期預金が勝手になされている事情のもとで、右預り証の交付をもつて、控訴人の訴外武林に対する担保提供承諾の裏付とはできない。

(三)  訴外武林は、本件定期預金の満期日(昭和五一年一〇月二七日)以前に被控訴人組合の組合長理事たる地位を退任しているが、控訴人から満期日に預金証書の返還を迫られた際にも、本件預金証書を被控訴人に対し担保に供することを同意していた旨の主張は全くしておらず、一か月程証書の返還を猶予されたい旨懇願するのみであり、更に追求の結果、同日請求あり次第直ちに返還する旨書面にて約定したのである。

(被控訴人の答弁)

控訴人の右主張事実はいずれも否認する。

(証拠関係)(省略)

理由

当裁判所も原審同様、控訴人の本訴請求はいずれもこれを棄却すべきものと判断するが、その理由は次に附加、訂正するほか、原判決理由説示のとおりであるのでこれを引用する。

一  原判決六枚目裏四行目冒頭より同六行目の「尋問の結果」までを「成立に争いのない甲第一号証の二、第二号証の一、二、原審証人武林重明の証言により真正に成立したものと認められる甲第一号証の一、乙第三号証、原審証人表富夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第一、二号証、原審証人表富夫、同宇野弘、同武林重明の各証言及び原審における控訴本人尋問の結果」と改め、同七枚目裏七行目に「年六・七パーセント」とあるのを「被控訴人組合規定による割合」と、同八枚目裏二行目に「証人表富夫の証言により真正に成立したと認められる」とあるのを「前掲」と、同八行目から九行目にかけて「元利金一、五一六万九、〇〇五円」とあるのを「元金一五〇〇万円及びこれに対する約定利息金」とそれぞれ訂正する。

二  当審において取調べられた各証拠調べの結果をもつてしても、前記認定(原判決理由引用)を動かすに足りない。

三  控訴人は、正規の担保取得手続がとられていないことなどを理由に控訴人が訴外武林に対して本件預金債権を担保に供することを承諾したことがないことは明らかである旨主張する。

然しながら、控訴人の訴外武林に対する右預金債権を担保に提供することの承諾には何らの方式、手続によることを要するものではなく、又、前記認定(原判決理由引用)の控訴人がことさら表面に出ない方法により被控訴人に対する無記名定期預金がなされている等の事情のもとで担保提供者たる控訴人の被控訴人に対する同意書等の作成がなされていないことをもつて、控訴人と訴外武林間の担保提供の承諾の存在を左右するに足りる事実とはいえないものである。

次に、原判決挙示の各証拠(前記一のとおり訂正されたもの)によると、控訴人は、定期預金証書を受領することが困難な格別の事情もないのにこれを受領せず、右預金証書を預け、預金払戻に必要な届出印の作成、押捺、保管を訴外武林に委ねたうえ、組合長の職印によることなく、訴外武林の私印の押捺され、訴外武林の住所の記載のある「定期証書預り証」と題する書面のみを受領している事実が認められるが、右は控訴人の訴外武林に対する担保承諾の事実を推認させる一事情ということができるものである。

更に、控訴人主張(三)の事実が仮に存在したとしても、右事実が直ちに控訴人の本件預金債権の担保提供承諾の事実と矛盾するものではないのみならず、かえつて当審証人木原輝雄の証言、当審における控訴本人尋問の結果によると、当時控訴人らは訴外武林に対し預金証書の返還を求めるというよりは、預金の払戻がなされない場合の訴外武林の責任を追求し、その際、被控訴人が預金の払戻に応じない理由を聞くことなく、訴外武林は「農協が支払わなければ自分が責任を持つ」と述べていたことが認められるのである。

右いずれの点よりしても控訴人の主張は採用の限りではない。

以上の次第であつて、右と同旨の原判決は相当というべく、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

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